化学療法とうつ・サイコオンコロジー
膵臓がんの治療では、長期にわたって化学療法(抗がん剤)を受ける方もいます。その場合「最初の数ヶ月のがんばり」を抜けたあたりで精神的な落ち込み(うつ)になることがあるようです。
日本の肺がん掲示板で、こんな相談を見つけました。
主人は、おかげさまで、先日の全身のCTの結果でも、再発の兆しは見られず、血液検査でも、異常なしだったのですが、12月に4クールが終わってから、副作用もほとんどなく、元気に乗り越えてきたのに、ここにきて、最近は寝てばかりになってしまいました・・・。
抗がん剤の投与中の方が、「絶対、よくなってやる!」という気力に満ちて、はりきっていて、ずっと元気でした。最近は、気力がなくなり、口数も少なくなってしまい、自分の殻にとじこもりがちになっています。
うつ病になっているのではないかと心配です。
・・・
義母は、弱っているのを、認めたくないのか、ほんとうに、気づいていないのか「2月から仕事復帰しなさい。もうどこも悪くないのだから。仕事をした方が元気になるんだから!」と言っています。でも、私から見れば、一日中、寝ていて、とても、会社復帰できるように思えないのです。・・こんな状態でも、本人と義母は、認めたくないようで、「どこも悪くない」というので、私も、主人と主治医の面談で同席しても、主人が「すごぶる快調です」というので、なにも相談できない状態です。
私の心配し過ぎなのでしょうか・・。結局、もうしばらく様子見するしかないのですが・・・。
もう一度、前のように、元気になってほしいです。
これに対する「肺がん外科医」さんからの回答です。
うつ状態が隠れている可能性があると思います。
ご主人のようにがんばってしまって、自分が弱っているのを押し隠そうとする方に見られがちですが、きつかった治療を終えてまずはやれやれという時に欝的な精神状態に落ち込んでしまうのです。加えてシビレで生活に不自由もきたしているわけなので、よけい落ち込んでしまう可能性があります。このような時、お義母さんのように「がんばれ!」的なことを言うのは最も悪手です。
Rieさんが担当医に電話なりなさって、鬱なのではないかと心配している旨を相談なさり、担当医からご主人に声をかけていただくのが一番スムーズかと思います。・・
糖尿病や膵臓がんなど膵臓の病気はうつになる人が多いと言われているそうです(糖尿病の人の30%ぐらい・参考)。加えて長期にわたる治療のストレス、化学療法による脳への影響(ケモブレインなど)もあるでしょう。
最近は、うつの治療(薬物療法など)がかなり進歩してきていますので、早めに主治医に相談するのがいいかと思います。大きな病院などの精神科には、がんの治療中の患者を対象とした「サイコオンコロジー(精神腫瘍科)」という分野に強い医師がいるようです。主治医から精神科への紹介状を書いてもらうのも一法です。(ケモブレインなど抗がん剤が影響している場合にはカウンセリングはあまり効果がなく、抗うつ剤を早期に始めるのが良いようです。)
PDQ日本語版のうつについての支持療法の項目によれば、第3次医療施設にいる患者の38%が著明な抑うつ状態にあるそうです。抑うつの診断と治療は、がん患者の健康感覚を改善します。 うつ病は治療のできる病気ですし、治療すれば本人も家族も楽になれます。がんだけでなくうつとも闘わなければいけないとしたら、どれだけ大変なことでしょう! うつの苦しみが少しでも早く軽くなりますようお祈りしております。
参考サイト:
「がんとつきあう ー こころのケア」(国立がんセンター がん対策情報センター)
日本サイコオンコロジー学会のホームページ(心の専門外来がある全国がん・成人病センター協議会加盟施設一覧が載っています)
「広がれ、「サイコオンコロジスト」の育成と活用」(がんナビ 5/8)
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追記1・介護をしている家族も、ストレスからうつ状態になることがあります。7月27日や6月1日の記事をご覧ください。(ちなみに、うつ病の生涯有病率は男性で15%、女性で25%だそうです。)散歩などの軽い運動は、心肺機能を高めてストレスに強い体を作るそうです。マッサージを受けたり、スターバックスなど若者の多いところに出かけて若い人のエネルギーを吸収してくるのはどうでしょう?
追記2・一般的な抗うつ薬の他に、メチルフェニデート(リタリン)という子供の多動性障害などで使われる薬が、ケモブレインや難治性のうつ、終末期のせん妄に効果があると言われているようです。これについてはまた別の機会に書きます。
追記3・写真はhanaOoOomさん撮影です。