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ブレークスルーになるかーすい臓がんの遺伝子異常の全容解明

PC genes


がんは、遺伝子の異常によって引き起こされる病気です。細胞の核の中に存在する遺伝子DNAに異常が生じたために、本来なら増殖するべきでない細胞が異常増殖したり転移を起こしたりする、というのが癌の正体です。


であれば、その遺伝子異常を治療すればがんを治療できるかもしれない、というのが癌研究者たちの一つの希望でした。実際、スイスの製薬会社が創ったグリベックという薬がある種のがん(慢性骨髄性白血病など)に完治とはいかないまでも著効を示すことがわかって研究者たちの意気が大いに上がりました。グリベックは、異常遺伝子によって作られたタンパク質の働きをブロックする分子標的薬だそうです(参考)。


ところが他の多くのがん(白血病など血液のがんに対して固形腫瘍と言います)に関しては、こうした分子標的薬は残念ながら効果を示しませんでした。多くの期待を担って登場したイレッサが、非小細胞性肺癌に対して限られた効果しか得られなかったのはよく知られている所です。また、すい臓がん向けに現在臨床試験が行われているタルセバも、単独では効果が不十分なためジェムザールと一緒に使われています。


今回、米国ジョンズ・ホプキンス大学の研究者らは、最も厳しい癌の一つであるグリオブラストーマ(神経膠芽腫という脳腫瘍)とすい臓がんの2つについて、20000個以上に及ぶ全遺伝子を検査して遺伝子異常を見つけ出しました。


その結果は驚くべきものでした。すい臓がんの場合、一人の患者細胞から平均で63個もの遺伝子異常が見つかったのです。脳腫瘍の場合は平均で60個。大きく分類しても12種類もの系統が見つかりました。これは癌の研究者にとって衝撃でした。なぜなら、固形腫瘍の遺伝子異常はせいぜい5-6個とこれまで考えられ、そのいくつかを狙い撃ちすればガンに勝てると思っていたからです。


「今まで敵についてはよく分かっていると思ったんですが・・。実際は小さな敵が山のようにいる状態でした。」とジョンズ・ホプキンス大学のベルキュレスク医師は語ります。「ただ一つの遺伝子を相手にするグリベックのような薬は、多くの固形腫瘍では効果がない可能性が極めて高くなりました。これからは、どの遺伝子異常が鍵なのかを見極める必要がありそうです」これはハーバード大学のフォーゲルシュタイン医師の弁。


なお、こうした研究には、患者からのがん細胞・組織の寄贈が欠かせません。(例えば、Johns Hopkins大学ではすい臓がんの患者が死亡したときにすい臓組織を遺贈してもらえるよう呼びかける文章をここに載せています。)勇気を持って病理解剖や研究に検体を提供された方々、ご家族の方々に敬意を表したいと思います。


参考記事:Major Breakthrough In Cancer Research, A Promising Way To Study Cancer (9月7日 eFluxMedia)
In Long-Awaited Maps of Cancer, The Breakthrough Is the Problem (9月5日 ウォール・ストリート・ジャーナル)
Core Signaling Pathways in Human Pancreatic Cancers Revealed by Global Genomic Analyses (9月4日 米国国立医学図書館 PubMed:サイエンス誌の論文の抄録)

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