発がん原因遺伝子
今日は有望な研究を2題紹介します。まずは、先日の新聞記事から。
発がん原因:遺伝子異常22種 7042人分解析(毎日新聞 2013年08月15日)
国立がん研究センター(東京都中央区)を中心とする国際研究チームは、30種類のがんを対象に細胞の遺伝子の突然変異を調べ、がんの原因となる変異のパターン22種類を発見した。…
多くのがんは2種類以上のパターンが重なり合うことで発症し、中でも肝臓、胃、子宮の各がんでは6種類のパターンが重なって発症していた。変異のパターンのうち、一部は喫煙や加齢、紫外線などの影響で引き起こされていることが推定されたが、他の多くは原因が特定できていないという。…(後略)
くわしく書いた記事がここにありました(マイナビ)。Nature誌の図が引用されていますが、すい臓がん(右から6列目)の場合は乳がん・卵巣がんと似た4個のの遺伝子異常のパターンが認められたようです。
今回新たに発見されたこととして、APOBEC遺伝子というものの変異がいろいろな癌で見つかったということが挙げられます。
新たな要因として、DNAの変異導入機能を持つ酵素として機能し、ウイルス感染などに対する宿主防衛機能として発現が誘導されることが知られている「APOBEC(APOlipoprotein B mRNA Editing enzyme, Catalytic polypeptide-like)遺伝子群」の異常によるものが認められた。(中略)
15のがん種について共通する体細胞変異パターンを有する「Signature2」ならびに「Signature13」(上から3行目と14行目)について、前述したようにAPOBEC遺伝子群の異常が新たな発がん要因であることが明らかになった。(後略)
この記事には膵臓がんについては書かれていませんが、考えるヒントになりそうな記事をオーストラリアの新聞から抄訳してみます。
「がんの50%」でアンチウイルスたんぱくが原因(ジョン・ロス 2013年8月15日 ザ・オーストラリアン紙)
写真:人間が持つ免疫力の一端をになう酵素が、白血病などの癌の原因となっているかもしれない。
新しい画期的な国際研究の結果、人体をウイルスから守るタンパク質が、最も多いがんの50%以上の原因となっているかもしれないと判明した。研究者たちはこのAPOBECという名前の酵素が、タバコや紫外線と同じぐらい危険な発ガン物質の可能性があると発表した。
このタンパク質は10年ほど前に発見されたものだが、ウイルスを体内から排除する際にその遺伝子(DNA)を壊す働きがある。オーストラリアからこの研究に参加したショーン・グリモンド氏はこう語った。「つまり、この酵素はウイルスのハードディスクを破壊してやっつける酵素なんですね」
「APOBEC酵素は、癌の発病にかかわる全く新しい要素です。白血病や骨髄腫の一部、すい臓がんや胃がんや乳がんで見つかってきています」クイーンズランド大学医学遺伝子センター長のグリモンド教授は、なぜがん細胞ではAPOBEC酵素が不適切に活性化されているのかを調べるためには今後の研究が必要だと語る。「なにが引き金になっているのかが分かれば、そこを止めれば良いのです」
「化学物質への暴露かそのほか原因となるものが分かれば、そこに狙いを定めて、がん化につながる遺伝子変異が蓄積する前に止められるはずです。」
(中略)今回見つかった癌関連遺伝子変異21個のうち、紫外線や喫煙や老化や遺伝子異常は半数を占めた。APOBEC遺伝子の変異は、もともとは乳がんで見つかったものだが、調べた全がん種のうち半数以上で発見された。
グリモンド教授は語る。「こんなにたくさんのがん種でAPOBEC遺伝子の変異が見つかるとは思いませんでした。ですからそこでAPOBEC遺伝子の働きを止めてしまえば癌の予防が可能になるのではないかと思う人もいるかもしれません。残念ながら、APOBEC遺伝子の働き自体を止めると、次にウイルスに感染したときその人が死んでしまうかもしれないのですが。」
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