新しい転移抑制研究
食中毒菌と放射性物質を組み合わせた新しいすい臓がんの治療法の研究が発表されました。まだ動物実験の段階ですが、早く実用化されると良いですね。
【4月24日 AFP】食中毒を引き起こす可能性のあるリステリア菌を膵臓(すいぞう)がん細胞に感染させ、腫瘍を殺傷する薬剤をがん細胞に届ける実験的治療法の有効性が動物実験で確認されたとの論文を、米国の研究チームが22日、米科学アカデミー紀要に発表した。この治療法が動物実験で検証されたのは世界で初めてという。
…自然界のリステリア菌に感染すると、食中毒を起こす恐れがある。研究チームは、毒性を弱めたリステリア菌にがんの治療に広く使用されている放射性同位体(ラジオアイソトープ)を付着させ、これを正常細胞以外のがん細胞に感染させた。
その結果、膵臓がんにかかったマウスで、この方法で治療したマウスの90%は、3週間後にもがんが拡がった兆候は見られなかった。実験は、膵臓がんの治療を施さなかった対照マウスが死に始めた21日目で中止した。ほとんどのケースでがんの拡散を停止させ、マウスに有害な副作用を及ぼすこともなかったとみられるが、この治療法延命が可能かを確認するには、さらなる研究が必要になる。
グレイブカンプ准教授は「さらに改良が進めば、われわれの治療法は転移性膵臓がんの治療に新たな時代を開く可能性がある」と述べている。(c)AFP
英語の記事にさらに詳しいことが出ていました。
Listeria Bacteria Targets Pancreatic Cancer (Biosciencetechnology.com)
Treating cancer with radioactive bacteria:Three wrongs make a right (The Economist)
あたりの記事を要約しますと、
実験では、レニウム188という放射性物質を食中毒性を弱めたリステリア菌に結合させてマウスに投与しています。リステリア菌は免疫系が正常に働いていればすぐに殺菌分解されるのですが、がん細胞の周囲では免疫が抑制・無力化されているので、レニウムが内部に入っていくことができるそうです。
「レニウムはがん治療に高い効果を示すベータ線を放射しますし、半減期が17時間なのですぐに体内から無くなって正常組織へのダメージを最小限にできるところが良いですね」とグレイブカンプさん(写真)は主張しています。
残念ながら実験では腫瘍本体にはあまり放射性リステリア菌の集積が見られなかったようですが、転移巣には高い濃度で集まっており、逆に健常組織には蓄積していなかったとのこと。研究チームの次の目標は、この治療法が実際にがんを発症したマウスの寿命を延ばしたかどうか確かめることだそうです。
発表されたグレイブカンプ准教授の論文の要約はこちらです。
膵がんは世界的な問題ですから、先日の癌ワクチンも含めさまざまな治療法の研究が行われています。化学療法も、じれったいところもありますが着実に進歩してきています。当ブログでは今後も応援していきたいと思います。
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