やぶいぬ応援団

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ウォルター・リーマンの記録(抄訳)(2)

(1)より続く
元サイト:http://www.pancreatica.org/story_Leaman.html

医学的経過ー治療

 そして、命をつなぐ化学療法が始まった。ウォルターは初めて希望を感じ始めた。しかし親戚や友人たちは、たいていこの病気についてほとんど知らないし、知っていたとしても良くない噂しか聞いていなかったので、(最上級の善意を持っていたにもかかわらず)二人を励ましてくれるとは限らなかった。治療が始まるまでに、ウォルターの背中と胃の痛みはピークに達しており、体重は25 kg減っていた。「僕を見たら、誰だって『こいつはもうすぐ死ぬぞ』って思ったと思いますよ。」 友人たちの多くは、二人が現実を否認していると思っていたようだ。3年が経った今でも、「たぶんまだ何人かはそう思っているかも知れませんね。」


 治療を開始して3週間たつ頃には、胸が絶えずムカムカし、においに異常に敏感になり、さらにふらつきも加わってきた。 しかし痛みと他の症状はおさまり始め、 食事がだんだんと楽になり、そして何より、ポジティブな波動が増えてきていた。

回復

 ウォルターは手術は受けなかったので、ウィップル手術特有の食事のトラブルを経験することはなかった。しかし、病気に抗がん剤の副作用が加わって、ある時点で食べることへの意欲がまったく無くなってしまった。「あなたは抗がん剤では死にはしないわ、がんで死ぬこともない、でもそんなに食べなかったら餓死してしまうかも!」 ジーンは治療の間中ずっと、食べろ食べろと強制しなければならなかった。時には、愛の鞭を使わざるを得ないこともあった。「今ここでこれを食べるか、病院に戻って点滴を受けるかのどちらかよ。賭けてもいいけど、病院に戻る方が大変だと思うけどなぁ…。」


 イメージの力が効果を発揮することもあった。化学療法の間、ウォルターは、抗がん剤が血管の中でカルガモの親子連れとなって、池の周りをぐるっと一周しながらがん細胞をきれいに掃除するところをイメージした。昔、池を回るカルガモの親子をよく見たのを思い出したのだ。またあるときには、孫や飼い猫が本能的に胃のあたりをなでたりさすったりしてくれるのに合わせて自分の体の中の全治癒力を集中させると、気持ちが少し安らいだ。「何が効いたのかわかりませんがね、試しにさすってみてくれたということだけで自分としてはもう本当に賞賛の嵐なんですよ!」


 幼い孫たち、特に一緒に住んでいる孫とウォルターの病気について話をするときには、なるべく話をシンプルにすることを心がけた。おじいちゃんは病気にかかっちゃった、だからみんなで力を合わせて、おじいちゃんがよくなるのを手伝うんだよ。

「がんが消えた!」

 2004年1月、あの宣告から16ヶ月後、ウォルターとジーンは、絶対に聞けないと思っていた言葉を、ついに聞くことができた。それが良いニュースで、バランスをとるように悪いニュースもあった。しばしば起こることなのだが、シスプラチンの容赦のない作用のために腎臓がダメージを受けてしまったという知らせだった。透析が必要になるかもしれないという可能性が浮上し、ウォルターはジレンマに陥った。この先は未知の領域だ。この化学療法のメニューのおかげでウォルターは生き延びているが、もしこれを中止したらどうなる? 医師団の助言は、ここまで来たら腎臓の問題の方が元々の病気より命取りになりかねないというものだった。そのため化学療法は終了となり、隔月にCTスキャンを撮影することになった。


 15ヶ月が過ぎた。2005年の春に腫瘍が再燃したが、今度は膵臓ではなく副腎であった。テンペロ医師は治療を再開した。今回はジェムザールに、その時点で臨床試験が行われており今ではよく普及している抗がん剤、オキザリプラチンを組み合わせた。信じられないことに、薬はまた効いた。腫瘍は再度反応をみせた。2005 年の秋までに、がんは再び消えたー今までのところ再発もしていない。


 というわけで、ウォルターは今でも厳重監視下にある。60日ごとにCTスキャンの繰り返しだ。「いまじゃもう、喜色満面って感じですよ」彼は言う。しかし二つの副作用が彼に起こってしまった。一つは、比較的最近分かったものだが決して珍しくはない副作用、末梢ニューロパシーである。これは指とつま先の感覚がだんだんにぶくなることだ。二つめは、腎臓が受けたダメージのために、標準的な「造影剤注射」を行えなくなってしまったということである。造影剤は、何よりも大切なCTスキャン画像をくっきり写すために使われるのだ。従ってCT上一見問題なさそうに見えても、確信を持ってそう言うのは難しくなってしまった…。現在は腎臓内科医がクレアチニンの値を安定にする治療を行っている。彼は「腎臓をコーティングする」薬物(Mucomyst) の使用を推めている。これを使えば、造影剤を使った完全なCTスキャンをもう一度撮れるようになるかもしれない。


 ジーンはこう見ている。「こういうことは、確率の壁を突破した人たちにどうしてもついてまわる問題なんだと思います。おそらく、どんな病気でもね。医学界でも、次にどんな手を打てばいいのかはっきりとは分からないんです。臨床試験で私たちは救われました。しかしそれにより新たな問題が生じた。 でもそれは稀な例外なので、新しい問題に対する解決法はまだ分かっていないことが多いんです。」
(つづく)

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