膵臓がんにかかったら(2008-09-05更新)
以下に、初めてこの病気に立ち向かう患者の方とご家族のための当サイトからのアドバイスをまとめました。参考にした記事は、Alison Doyle による Suggestions for Pancreatic Cancer Patients / Caregivers です。これは『希望がなければ人は生きられない』という大変印象的な闘病記の一部です。
アリソンさんはお父様を膵臓がんで亡くされており、上の手記はその体験をまとめたものです。翻訳の許可を求めたところ、「父は何度も日本に行ったので友達がたくさんいたんですよ。日本の方に私たちの経験が役に立てば光栄です。母も喜んでいます」とのコメントをいただきました。
[ 重要→ここに記したものは筆者(アリソンさんまたはやぶいぬ)の個人的な見解であり、特定の治療法や薬の使用を推奨するものではありません。ご自身の病状については、担当医とよく話し合ってください。このページ下の<免責事項>もお読みください。]
以下、囲み部分がアリソンさん、枠外がやぶいぬによるものです。
膵臓がんにかかったら
1. 今すぐ、PanCAN(膵臓がんアクションネットワーク)に連絡を取りましょう。
PanCAN の患者連携サービス(PALS) は、膵臓がんや、治験、支援者などについての情報を患者本人や家族に提供してくれます。
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- やぶいぬ注:2006年10月に PanCAN Japan (パンキャンジャパン・日本すい臓がん患者会)が発足しました! 日本語でのさまざまな情報がよくまとめられています。まだ発展途上のサイトですが、ぜひ一度訪れてみてください。やぶいぬ応援団も闘病記の翻訳で協力しています。
2. 一つの病院にかかり続ける必要はありません。
膵臓がんの治療には専門的な知識と技量が必要です。近所の病院では、膵臓がん治療の経験が少ないかもしれません。膵臓がんの治療に経験がある外科医、腫瘍内科医を選びましょう。
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- やぶいぬ注:PanCAN Japanのサイトに、膵臓がん専門病院一覧が掲載されました。手術を受けるときは、日本肝胆膵外科学会の高度技能医修練施設リストや高度技能指導医リストを探しましょう。地域がん診療拠点のリスト(がん情報サービス)も参考になります。また『病院をさがす』のページには『全国がんセンター協議会加盟施設』や『緩和ケア病棟がある病院』の一覧があります。どんなガンを扱っているかなどの情報も調べられます。
- 良い医師の選び方についての議論をこことここに載せました。良い患者になるための方法はこちら
3. セカンドオピニオンをもらいましょう。
膵臓がんの治療に長けたがんセンターなどで、専門医ならどのような方針で治療するのか聞いてみましょう。
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- やぶいぬ注:「セカンドオピニオン」とは、こちらから今までの検査資料を持ち込み、それを元に30分程度の相談をするといったもの。改めて診察や検査はしません。平成18年以降制度が整備され、セカンドオピニオンが受けやすくなっています。主治医からの紹介状と検査結果の資料(病理標本、レントゲンフィルムなど)が必要です。費用は1万5千円ぐらいだと思います。自分の命に関わる決断ですから、勇気を出してセカンドオピニオンをもらいましょう(できれば最初の治療を始める前に)。キャンサーネットジャパンの刊行物に、膵臓がんセカンドオピニオン協力医リストがあります。地域相談支援センター一覧も参考にしてください。
- 注:セカンドオピニオンとは「参考意見を聞く」ということであり、転院を目的とした受診とは手続きが異なるので注意してください。セカンドオピニオンを受けて今の担当医の方針が納得できれば、そのまま現在の病院で治療をつづけることもあるでしょう。
4. 時間を無駄にしないように。
進行が早い膵臓がんの治療は、時間との戦いです。検査、治療がすみやかに行われるように主治医と相談してください。
5. 受診のときは、記録をつけましょう。
現実を目の前にした時、医師の言ったことすべてを覚えておくのは困難です。検査結果のコピーをもらいましょう。ノートを用意して、あらゆるデータを記録しておきましょう。レコーダーなどの利用も考えられるかもしれません。
6. サポートチームを結成しましょう。とくに移動手段。
自分ひとりでこの病気と闘うのはあまりにも大変です。我が家(アリソン)の場合では、兄が抗がん剤点滴のところに父を連れて行くドライバーになり、弟は医療機関との連絡担当、もう一人の弟は皆が帰宅する前に夕食をセットしておく係になりました。家族がいなければ、ボランティアやヘルパーなどの利用を考えてみましょう。
7. 膵臓がん情報を研究して、学びましょう。
知識を得ることは恐ろしいことではありません。知識を自分の味方にしてください。
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- やぶいぬ注ーまずは基本情報:国立がんセンター(がん情報サービス)の膵がんのページで基本的な知識の勉強ができます。
- 膵臓がんの治療については、2004年の資料ですがここにわかりやすい講演録がありました。それによると膵臓がんの標準治療は以下の通りです。
- 抗がん剤の選択に関する参考記事はこちら(膵臓がん、薬併用で延命効果)。最近では、外来通院化学療法を導入して入院期間の短縮が図られています。外来化学療法に関する参考記事はこちら(1・2)、ジェムザールについてはこちら(がんサポート情報センター)
- 免疫療法や遺伝子治療はまだ試験段階の治療で評価が定まっておらず、膵臓がんの温熱療法は効果があったという報告があまりないため最近は行われなくなってきているそうです。また、緩和医療(がんの痛みをとったり抗がん剤の副作用を緩和する医療技術)は近年かなり向上してきたので、治療の最初から様々な痛み止めを使ってできるだけ体に楽な闘病を目指します(モルヒネなどの医療用麻薬についてここに書きました)。
- さらに調べるための情報源:日本膵臓学会が作成した『科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン』をもとに、日本癌治療学会が「がん診療ガイドライン」を公開しています(臨床医向け)。米国での標準治療については PDQ日本語版というサイトで調べることができます(がん治療情報Wikiにまとめあり)。研究段階(まだ効果が証明されていない)の治療としては、Surgery Now のこのページやCancer Information Filesの膵がんのページにかなりの量の情報が網羅されているようです。
- アメリカでの最新の膵臓がん講演会の内容を、パンキャンジャパン(日本すい臓がん患者会)のこのページに翻訳掲載しています。
- わたし自身は、癌掲示板から、多くのアドバイスをもらいました。個人のホームページ(癌リンクで探せる)では、貴重な闘病記や、有益な情報満載の掲示板にアクセスすることができます。AskDoctors (有料)や がんのWeb相談室といった医師の意見が聞けるページもあります。医療費などの問題に関しては、静岡がんセンターのがんよろず相談が参考になるでしょう。
- 本人または家族が化学療法(抗がん剤)に気が進まない時:8月25日の記事「どうして治療をするの?」をご覧ください。
- 情報が多すぎると感じた方へ:さまざまな情報の信ぴょう性を評価する方法について、「がん医療相談」のこの記事に書かれています。基本的には公的機関発信の情報を中心にすべきとのことです。それから、あまりに調べすぎて「ネット中毒」にならないように!
8.(治験について) ーやぶいぬ
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- 膵臓がんの治療成績がたいへん厳しい(ステージIVでは5年生存率も算出できない状況です)こと、また日本では膵臓がんに認可されている薬の種類が少ないことを考えると、臨床試験(治験)の話があれば参加を真剣に検討しても良いと思います。膵臓がんの標準治療薬ジェムザールの奏功率は、報告にもよりますが15%ぐらいだそうです。治験に参加するかどうか判断する基準として、試験担当医から説明をよく聞き、この数字を上回る可能性があれば検討の余地があると思われます。もちろん治験への参加は本人の自由意志で行われるべきです。気が進まない場合に断るのももちろん患者の自由で、断ったからといって患者が治療上不利益を受けるようなことはあってはなりません。
- 当サイトでは、8月7日、14日などの記事で治験について取り上げました。現在行われている治験は、 がん情報サービスで調べることができます。治験についての詳しい説明は、がん情報サービスの『臨床試験について』に書かれています。
9.(日常生活、民間・代替・食事療法などについて) ーやぶいぬ
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- 食事:抗がん剤や放射線治療中、また体重が減った時の食事については『症状に合わせた食事のとり方(がん情報サービス)』が詳しいです。『K食(化学療法中の食事)について(癌研有明病院)』も良いでしょう。こちらの記事もどうぞ。
- 運動:軽い運動をがん治療に取り入れることは、体力の向上(赤血球数の維持)につながります(参考:乳がんでの調査結果)。例えば散歩は落ち込んだ時の気分転換にも良いですし(参考)、膵臓がんに多いと言われる血栓症(エコノミー症候群など)の予防にもなるそうです。また、腕の筋肉をつけると血管が太くなって採血や注射が楽になるかも(参考)?
- ジョンズ・ホプキンス病院では、膵臓がん患者に 魚油(EPA)を摂ることを勧めています(体重減少や悪液質を防ぐため)。くわしくはこちらをご覧ください。
- 漢方や健康食品:手術を受けるにしても、化学・放射線療法を受けるにしても、膵臓がんと戦うには体力が必要です。(全身状態が良くないとその後の治療の成績が悪くなることが数々の調査でわかってきました。)膵臓がんは食物の消化に影響するために、体重・体力が減少する例がたいへん多いのです。個人的には、体力をつける意味で代替療法を利用してもいいのではないかと思います。ただし健康食品にはがんを治す力・免疫力を上げる効果はありません(もしあったら製薬会社が数百億円の開発費をかけてとっくに実用化していたはず。また東洋医学の本場中国で膵臓がんの死亡率が低いという話も聞きません)から、高価なものは論外です。それから、漢方薬などの中には抗がん剤の作用を弱めたり肝臓に悪影響を与えたりするものもありますから、やはり正直に主治医に話しておくべきでしょう(7月16日の記事参照)。
- 代替療法について学ぶための最もよい情報源は、がん情報サービスの『がんの代替療法』でしょう。『がんと食事について』も目を通す価値があります。四国がんセンターの『がんの補完代替医療ガイドブック』は、健康補助食品に関するこれまでの学術報告を集めて検証し、冷静な利用を呼びかけています。国立健康・栄養研究所の『「健康食品」の安全性・有効性情報』のページは大変充実しています。
※2007-05-10修正:リンク切れを直しました。
※2007-06-01修正:「がん診療ガイドライン」の情報を追加しました。
※2008-09-05修正:「日本肝胆膵外科学会 高度技能医修練施設リスト」の情報を追加しました。
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