生存率の壁を破った男
今日はお年玉ということで、宝くじに当たったように膵臓がんが全快した話をお送りしたいと思います。
ロニー・ストーンさんは16年前、肝臓に転移していて手術不可能な膵臓がんと診断されました。当時は膵臓がんに対するよい治療法がなかったため、主治医から「家に帰るか実験的な治療を受けるかのどちらかだ」と選択を迫られました。ストーンさんはそこで「自分の体を医療の進歩に捧げれば、誰かがそれで助かるかもしれない」と実験的な治療を受けることにしたのです。二種類の試験的治療(あまり結果は芳しくありませんでした)の18ヶ月後、主治医はストーンさんの体に入っていたすべての管を抜きましたーーつまり膵臓がんが完治したのです! 医師団が調べたところ、ストーンさんの血液には「キラーT細胞」という免疫細胞が多く出現していることが分かり、そこから膵臓がんワクチンが作られて現在試験が行われているそうです。
(以下の記事はストーンさんからの伝聞をもとにしており、あまり医学的にはくわしく書かれていません)
生存率の壁を破った男(マーチンスビル新報より抜粋)2006年11月21日
膵臓と肝臓に腫瘍があると言われ余命3から6ヶ月と診断されたその時、ロニー・ストーンは自分の体を医学の進歩に捧げる決心をした。
1991年1月のことだった。
以来、研究者たちは彼の血液から癌を殺す細胞を抽出している。ストーン氏によれば「この15年は振り返ってみれば自分の人生で一番いい時期でしたよ」とのことである。
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ストーン氏の病歴のはじまりは、胃の調子が悪くなって病院に行ったことだった。治療にもかかわらず、ストーン氏の具合は悪化した。「どんどん体重が減ったよ。毎日1ポンド減って、最後は30日で30ポンド(14キロ)もやせてしまった」とストーン氏は振り返る。
それにもかかわらずストーン氏はデュポン社の警備員の仕事を続けたが、1991年1月1日の夜のシフトの後にスポーツジムで運動をしたところ体の右側が今までに経験したことがないほど痛みだした。朝の9時に家に帰って就寝したが、お昼頃に妻のドリスがストーン氏の肌が黄色くなっているのに気がついた。
ストーン氏はすぐにデューク大学病院を受診し、すみやかに手術が行われた。しかし麻酔から目が覚めると、医者が部屋に入ってきて「申し訳ありませんが手遅れでした」と言った。医師団の話では、がんが肝臓と膵臓の両方に「食い込んでいる」とのことだった。手術不能の状態であり、「我々にできることは何もなく、お腹を閉じざるをえませんでした。」
余命を聞かされて「自分がどれだけショックを受けたか、とても言葉ではいえないよ」とストーン氏は振り返る。「ちょうど同じ頃マイケル・ランドン(『大草原の小さな家』の俳優)も同じ病気と診断されたんだ。ランドンは菜食療法を選んだって聞いたけど、『金持ちなら金に任せて命を買えるのになぁ』と思ったことをよく覚えてますよ。」しかしマイケル・ランドンはその後数ヶ月で亡くなり、ストーン氏はいつ自分の番が来てもおかしくないと覚悟を決めたのだった。
そして、ストーン氏は歴史に一歩を刻むともいうべき決断をした。医師団から「何もしないか、あなたの体を医学の進歩に捧げるかどちらか選んでください」という選択肢を告げられた彼は、少し迷った後、後者を選んだのだ。「誰か他の人の役に立てるかもしれない」とストーン氏は考えたのだった。
研究者たちは、最初にストーン氏に『TNF(腫瘍壊死因子)』という実験的な薬を使った。ストーン氏はこの治療を受けた最初の人間だった。点滴で薬が注入された。
「薬が体に入ったら、体が爆発するみたいになった。自分の体がばらばらに砕けるかと思ったよ」
治療を2、3日受けると、ストーン氏は目や耳など体中の穴から出血した。
「心臓が破裂しそうなのを見て、治療からはずしてもらえたんだ」
研究者たちが次に始めた治療は、シスプラチンとアドリアマイシンという二つの強力な抗がん剤に免疫療法を組み合わせたものだった。
「今度のはそこまでひどくなかったけど、治療の間じゅう横になってなきゃいけなかったのが辛かったね」
腸につながる袋を体の両側にテープでつけていなければならなかった。袋は毎日取り替えるので、しばらくすると肌がテープ負けしてしまった。さらに排液のために2本の管が体に刺さっていた。
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そして18ヶ月後、いつものようにデューク大学を受診したストーン氏は看護婦から「今日は管を抜きますのでちょっと時間がかかります。管を抜くのはいつもは私たちの仕事じゃないんですよ。あなたが(生きて)管を抜くはじめての患者ですから」と言われる。
管は抜け、二度と再挿入されることはなかった。
「そうして、完治したから家に帰ってもいいって言われたんだ。」・・・
最初、ストーン氏は3ヶ月ごとに診察を受けていた。その後診察の間隔は6ヶ月、今では1年に開いた。
何度診察を受けても、ストーン氏の体のどこにもがんは見つからなかった。周りの人々は驚いたが、ストーン氏自身はそのことを一度も疑わなかった。「神様が俺の膵臓も肝臓も作ったんだから、それを治すのだってできるはずさね」と彼は語った。
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1996年には、彼の物語には新たな進展があった。彼が5年目の診察に出かけた時だった。
「珍しい細胞がストーンさんの血液に出てきているんですよ」とストーン氏は看護婦に言われた。「キラー細胞と言って、がんを体から消してしまう細胞なんです」
ストーン氏の白血球(Tリンパ球)にはキラー細胞が認められたため、そこから「がんをなくすワクチン」が作られたそうだ。このワクチンは全国2カ所の臨床試験でテストされている。
「俺が聞いた限りでは、がん患者から取った細胞と俺のキラーT細胞を一緒に培養するんだそうですよ。それで感染した細胞をがん患者に戻すんだそうです。」
もしうまくいけば、その細胞が「がんをなくしてしまう」らしい。ストーン氏は自分の血液から対価をとらないという書類にサインしたとのこと。
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ストーン氏は1999年までに何度も血液を採取し、最後には「もう充分です、これだけあれば研究室でキラーT細胞が再現できます」と言われたそうだ。
ストーン氏の弁では「全部が信じられないような体験だったよ。肝がつぶれたよ」とのことだ。「ほんとに死ぬかと思うぐらい具合が悪くなったけど、そこからできたものはものすごく価値のあるものだったんだから。」
彼は付け加えた。「俺についてくれた友達も教会もすごかったからな。わかったけど、友達と神様がいれば、それで十分なんだ。金持ちかどうかはあまり重要じゃないね。」
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追記:がん免疫療法の医学的な説明については、この記事がよいと思います。2.6%の方で効いたと判定できたそうです。