日本発の有望な薬剤・NK105
去年のことですが、すい臓がんに対する有望な薬の開発ニュースが出ていました。
「抗がん剤で狙い撃ち」治療、臨床試験段階に――日本化薬など、副作用軽減に期待。 (2006/09/22 日本経済新聞)
抗がん剤をがん細胞に集中させて狙い撃ちする「薬物送達システム(DDS)」で、効果を確かめる臨床試験が本格化してきた。日本化薬やベンチャー企業がそれぞれ、国立がんセンターなどと組んで試験に乗り出した。従来の抗がん剤も副作用の影響を抑えながら治療効果を出せると期待されており、一部で膵臓(すいぞう)がんが小さくなるなどの成果も出てきた。
日本化薬は「タキソール」という抗がん剤をナノ(ナノは十億分の一)メートルサイズの粒子に入れ、がん組織で放出させるDDSを、国立がんセンター東病院の松村保広部長らと開発、協力して試験を実施した。
主に安全性を確認する試験(第一相試験)の段階で、難治性の膵臓がんなどの患者十九人が参加し、二人は膵臓がんの肝臓への転移がほとんどなくなるなどの強い効果があった。・・・
この記事には薬の名前がありませんが、がんナビ:開発中の抗がん剤に出ているこの薬でしょうか?
NK105(高分子ミセル化パクリタキセル)注射(臨床試験の結果はここにありました)
薬物伝送システム(ドラッグ・デリバリー・システム、DDS)というのは、抗がん剤などの薬を狙ったところへ届ける技術です。いくら優れた抗がん剤でも、がん細胞に届かなければ効果がありません。抗がん剤を様々な技術で加工し、がん組織に取り込まれやすくします。また、抗がん剤をがん組織だけに届けて正常組織への漏れを減らすことで、不要な全身性の副作用が出てくるのを抑える効果も期待できます。これまで実用化されたDDS製剤には、カポジ肉腫の治療に承認されたばかりのドキシル( リポソーム封入ドキソルビシン)などがあるそうです。
NK105で使われているナノテクノロジーについては、この技術を開発しているベンチャー企業のホームページに説明がありました。それによると、NK105ではミセル化ナノ粒子といわれる超微細な粒子に抗がん剤を包み込んで、血液に溶けにくい油性の抗がん剤を可溶化しているそうです。(こうして加工することで、がん組織内の薬の濃度を未加工のものの25倍に高めることができるそうですー参考。)開発目標としては『従来の製剤では成し得なかった「薬効の増大」と「副作用の減少」を達成できる製剤の開発を目指しています。』『「抗がん剤といえば副作用があるもの」と半ば常識化しているこの現状を覆すべく、ナノキャリアはチャレンジします。』と書かれていますね。
ミセル化ナノ粒子の研究が日本で進む背景には、こんな事情もあるそうです。
日本勢が高分子ミセルに取り組むのは、リポソームに比べ出願された特許がまだ少ないため、今後の研究開発の余地が大きいことも理由の一つ。日本が先行するナノテクノロジー(超微細技術)と伝統的に強い高分子技術を組み合わせて開発に生かす。リポソーム実用化では米国に先行されたが、巻き返しを狙う。(日経産業新聞)
また、上の記事にはこんな記述もありました。
「膵臓(すいぞう)がんのDDSには高分子ミセルが一番有望だろう」と期待するのは東京大学の片岡一則教授だ。
膵臓がんなど消化器系がんは、卵巣がんなどに比べて周囲の血管があまり多くない。このため血管とがんの距離が比較的長く、微小な粒子でないとがん細胞に到達させるのは難しいという。
高分子ミセルはリポソームに比べ微粒子化が容易で、すい臓がん向けなどに使うため必要とされる直径数10ナノ(ナノは10億分の1)メートルのカプセルも作成できる。
この記事によれば、NK105は2006年秋にも第2相試験が始まる予定だそうです。発売目標は、一つ上の記事によれば2009年。がんばってください!
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追記(2007-2-12):NK105の第2相試験の開始は今年の夏に決まったそうです。こちらの記事(日本化薬、DDS抗がん剤で中期の治験に今夏着手・日経産業新聞)をご覧ください。
注:写真は日本の大型ロケット、H-IIAロケットです。宇宙開発事業団のホームページより。日本発のDDS製剤のイメージということで(笑)。