少量頻回療法の体験(2)
希望の光
チュー医師によれば、少量頻回化学療法はバレットの他にも6人のすい臓がん患者で成功しているという。チュー医師は治療結果をオーランドで行われた2007年消化器癌シンポジウムで発表したそうだ(参考)。しかし多くの医師は、チュー医師がこれを新しい癌の標準治療として提唱するためにはもっと沢山の証拠を積み重ねなければいけないと考えている。
スウェディッシュがんセンターのハンク・カプラン医師の意見。「7人ではまだ結論を出すには早すぎますね。でももしチュー氏の結果がそれほど良いものであるならば、この次の結果に注目したいと思います。しばらくすれば結果が出てくるでしょう」
カプラン医師によれば、少量化学療法は新しい治療法であるが、これは5年ほど前からがんの治療法の主役として脚光を浴びつつあるそうだ。肺がんや乳がんの治療では最初の試験に成功して注目されている。カプラン医師はチュー医師のすい臓がんへの少量化学療法の発表を読み、もっと大規模な臨床試験を行えば本当にこの治療がすい臓がん患者への福音となるかどうかが分かるはずだと考えている。
フレッド・ハッチンソンがん研究センター腫瘍内科ですい臓がんの治療を行っているスニル・ヒンゴラニ医師は、当分は従来の標準化学療法を続ける予定だと語った。なぜなら、標準化学療法より良い成績を証明した臨床試験はまだ無いからである。「わたし自身、このまま標準化学療法がずっと変わらずに続いていくのが良いことだと思っているわけではありません。ただ現在のところはこれが最も良いと受け入れられている治療法なのです。少量化学療法やメトロノミック療法が標準化学療法よりも良いかどうかは、まだ証明されていませんからね。しかし、少量化学療法は新しいメカニズムで癌を攻撃しますし、これまでの報告では副作用が少なくまた効果もそれなりに出ているようですから、少なくとも今後少量化学療法が標準化学療法を補完するものになる可能性を期待はできますね」
チュー医師は、現在第2相臨床試験の被験者を募集している。これはシアトル健康・がん治療センターなどを統括している『アメリカがん治療センター』の承認を経たもので、成功すれば少量化学療法に対する疑問の声を黙らせることができるだろう。
2度目のチャンス
バレットは2005年1月の終わりから2006年8月まで化学治療を受けた。その間に彼の病状はベッド上安静から車いすでの移動へと変化し、それが歩行器、そして杖をついて歩くまでに回復した。
現在、すい臓がんの診断から2年半が経っているが、バレットは生きており、自分の足で歩いている。チュー医師によれば、バレットの体は事実上がんが消えた状態だそうだ。肝臓にあった直径10cmの腫瘍は2cmに縮小した。すい臓や他の臓器にあった腫瘍は消失している。
チュー医師は語る。「今までの治療法では、(すい臓がんの患者が)診断後2年生きられるのは25年か30年に一人ぐらいでしょう。この新しい治療法を使えば、そういう人がここに一人いますし他にも何人もいます。」
「これはすい臓がんにも少量化学療法が有効だということであり、少量化学療法という考え方そのものが有効であるという証明です。アーロンは2年半生きていますが、(シアトルがんセンターで治療を受けたアーロン以外のすい臓がんの患者は)全員亡くなってしまいました。」
バレットは今37歳。夫妻は、彼が回復し人生で2度目のチャンスをもらうことができたのは良い医師に出会えたことと祈りのおかげだと思っている。彼はフォード社でまた仕事につきたいと希望している。熱心なサイクリストであった彼だが、今や再び自転車に乗れるようになり、7月のシアトル・ポートランドクラシックレースのためのトレーニングを始めた。以前は身長185cmだったが、治療によってカルシウムと骨量が減少したために少し腰を曲げて歩くようになった。バレットによれば、現在彼の身長は173cmでありオーダーメイドで自転車を造ってもらったそうだ。
バレットは振り返った。「わたしは自分が死ぬとは決して思っていませんでした。自分はただ、がんにかかっただけなのだと。わたしは自分が受ける治療を信じていました。今は他の人も同じ治療を受けられるようになるといいなと思っています。」
■
(写真はhttp://en.wikipedia.org/wiki/Image:Annotated_bicycle.jpgより借用)