ノーベル賞と抗がん剤
今年2006年のノーベル生理学医学賞は、「RNA干渉(RNAi)」に決まりました。
RNA(アールエヌエー)干渉とは、ひとことで言うと特定のタンパク質の生産を阻止する技術です。がん細胞は、増殖や転移のために特定のタンパク質を必要としています。このタンパク質を止めるための技術です。イレッサなどの「抗体医薬」が、すでに存在しているタンパク質に結びついて働きを阻害するのに対して、RNA干渉はさらに源流でタンパク質の生産自体を止めてしまうという違いがあります。抗体やRNA干渉はその特定のタンパク質にしか働かないようにデザインされているので、これまでの抗がん剤に比べると他の正常細胞への影響が少ないと考えられています。
RNAとは、タンパク質を形作るアミノ酸配列を書いた「文書」です。DNA(ディーエヌエー)が細胞の核の中にすでにある(図書館)のに対して、RNAはタンパク質を生産するそのつどDNAの一部をコピーして作られます。RNAは核の外にあるタンパク質工場(リボソーム)に運ばれ、そこで文書を翻訳してそこに書いてある通りにタンパク質が作られるのです。(図書館の本は外に持ち出せないので、工場で必要ならばコピーしてきて使うという形です。)
RNA干渉は、RNAが核の外に出てきたところを狙います。「短い干渉RNA」がメッセンジャーRNAに結びつき、分解して無力化してしまうのです。(イラストはWikipediaより。右上の赤い円が核です。)
ちなみに、「抗体」がノーベル賞を受賞したのは1972年、はじめての抗体抗がん剤リツキサンが悪性リンパ腫の治療薬としてアメリカで承認されたのが1997年でした。科学の進歩は年々加速していますが、RNAiが抗がん剤として使えるようになるのはいつごろでしょうか。
(RNA干渉は特にがん治療の分野で有望だとされており、「RNAi 抗がん剤」などのキーワードで検索すると、実用化に向けた研究がもうすでにさまざまな大学や製薬企業によって行われていることが分かります。例えば1、2など。)
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追記(2007.01)ーといっていたら、もうRNAiをもとにした抗がん剤のニュースです! イギリスの研究者たちがRNAiに基づいたすい臓がん治療薬を開発し、今後数ヶ月のうちに臨床第一相試験に入るそうです(参考)。