電話相談サービス開始
今月から、NPO法人パンキャンジャパンによって、すい臓がん電話相談 パルズが始まりました! こちらの記事をごらんください。
パルズ電話相談センター(PALS)
パルズ(PALS)とは、膵臓がん患者とそのご家族が必要としている情報を提供する、あるいはご一緒に探すというリエゾンサービス(Patient And Liaison Service)の略です。ホテルのコンシェルジェのようなサービスです。・・
相談日は週3回。無償で行われています。
相談日時:毎週水、木、金 14:00-17:00
Tel: 03-3221-1421
※記事掲載当初電話番号と相談時間が違っておりました。お詫びして訂正させていただきます。ご指摘頂いたたみこ様、ありがとうございました。
パルズでは、膵臓がん患者とそのご家族が最低限必要とする情報を集めたガイドブックを提供しているそうです。医学・医療情報をはじめ、食事・栄養、心のケアに至るまで、「膵臓がんと診断されたら、ひとりでお悩みになるのではなく、気軽にパルズ(PALS) にご相談ください。」とのことです。
※パンキャンジャパンでは、メールでの相談も受け付けているそうです(回答はホームページ上で公開されます)。くわしくはこちら。メールでの相談は現在休止しています
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アキシチニブの臨床試験について
日経BP社のサイト「がんナビ」の「開発中の抗がん剤」には、すい臓がんへの臨床試験を検討している薬として「タルセバ(エルロチニブ)」、「AG-013736(アキシチニブ)」、「エルプラット(オキサリプラチン)」の3つが挙げられています。(タルセバは肺がん、エルプラットは、大腸・直腸がんの薬として日本で既に承認されています。)このうちタルセバとアキシチニブについては、臨床試験(治験)を日本で受けることができるようです。
タルセバに関しては過去記事1・2・3などで触れましたので、今回はアキシチニブについてまとめます。アキシチニブは飲み薬(経口)の分子標的薬で、血管新生阻害剤と呼ばれるタイプの薬です。
がん(腫瘍)は、栄養や酸素を得るために新しい血管を作って引き込もうとします。この現象を血管新生と呼びます。この血管新生を阻害してがんへの血液や栄養の供給を断ち、がんを兵糧攻めにするという薬が、血管新生阻害薬です。(このあたり「九州大学教育・研究の最前線」のページ(医学研究院桑野教授による)を参考にしました。右上の図もそこから取っています。)
すい臓がん細胞は、VEGF (血管内皮細胞増殖因子)という血管新生を誘導する物質を産生することで新しい血管を呼び込みます。ここを阻害するのが今回のアキシチニブです。アキシチニブは、VEGFの受容体を阻害して、血管側がVEGFのシグナルを受け取って増殖できないようにするそうです。
あくまでも「がんを兵糧攻めにする薬」なので、すい臓がんの場合これだけで完治するというものではなく、他の抗がん剤と一緒に使うことが多いようです。
製薬会社ファイザーがアメリカで行った第2相臨床試験(103人が参加)の中間報告(英文)では、はっきりとした差は出なかったもののゲムシタビンとアキシチニブを両方投与された患者の方がゲムシタビンのみの患者に比べて長く生存する傾向が認められました。
日本では今年の初めから(世界的には去年7月から)、すい臓がんを対象とした第3相試験が行われているようです。患者は無作為に、ジェムザール単独かジェムザールとアキシチニブ併用のどちらかに割り付けられます。日本医薬情報センターのサイトで、試験薬剤名にAG-013736と入力すると情報が検索できます。試験への参加には、以前にゲムシタビンなどの抗がん剤で治療された人は参加できないなど、いくつかの制限事項があるようです。
すい臓がんの場合、有望なカードをできるだけたくさん持っておけば道が開けるのではないでしょうか。主治医などから治験への参加を勧められた方は、積極的に検討しても良いと思われます。
参考:
腎がん患者の治験体験記
ASCOでの発表(がんナビ 2007年6月11日)
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ブレークスルーになるかーすい臓がんの遺伝子異常の全容解明
がんは、遺伝子の異常によって引き起こされる病気です。細胞の核の中に存在する遺伝子DNAに異常が生じたために、本来なら増殖するべきでない細胞が異常増殖したり転移を起こしたりする、というのが癌の正体です。
であれば、その遺伝子異常を治療すればがんを治療できるかもしれない、というのが癌研究者たちの一つの希望でした。実際、スイスの製薬会社が創ったグリベックという薬がある種のがん(慢性骨髄性白血病など)に完治とはいかないまでも著効を示すことがわかって研究者たちの意気が大いに上がりました。グリベックは、異常遺伝子によって作られたタンパク質の働きをブロックする分子標的薬だそうです(参考)。
ところが他の多くのがん(白血病など血液のがんに対して固形腫瘍と言います)に関しては、こうした分子標的薬は残念ながら効果を示しませんでした。多くの期待を担って登場したイレッサが、非小細胞性肺癌に対して限られた効果しか得られなかったのはよく知られている所です。また、すい臓がん向けに現在臨床試験が行われているタルセバも、単独では効果が不十分なためジェムザールと一緒に使われています。
今回、米国ジョンズ・ホプキンス大学の研究者らは、最も厳しい癌の一つであるグリオブラストーマ(神経膠芽腫という脳腫瘍)とすい臓がんの2つについて、20000個以上に及ぶ全遺伝子を検査して遺伝子異常を見つけ出しました。
その結果は驚くべきものでした。すい臓がんの場合、一人の患者細胞から平均で63個もの遺伝子異常が見つかったのです。脳腫瘍の場合は平均で60個。大きく分類しても12種類もの系統が見つかりました。これは癌の研究者にとって衝撃でした。なぜなら、固形腫瘍の遺伝子異常はせいぜい5-6個とこれまで考えられ、そのいくつかを狙い撃ちすればガンに勝てると思っていたからです。
「今まで敵についてはよく分かっていると思ったんですが・・。実際は小さな敵が山のようにいる状態でした。」とジョンズ・ホプキンス大学のベルキュレスク医師は語ります。「ただ一つの遺伝子を相手にするグリベックのような薬は、多くの固形腫瘍では効果がない可能性が極めて高くなりました。これからは、どの遺伝子異常が鍵なのかを見極める必要がありそうです」これはハーバード大学のフォーゲルシュタイン医師の弁。
なお、こうした研究には、患者からのがん細胞・組織の寄贈が欠かせません。(例えば、Johns Hopkins大学ではすい臓がんの患者が死亡したときにすい臓組織を遺贈してもらえるよう呼びかける文章をここに載せています。)勇気を持って病理解剖や研究に検体を提供された方々、ご家族の方々に敬意を表したいと思います。
参考記事:Major Breakthrough In Cancer Research, A Promising Way To Study Cancer (9月7日 eFluxMedia)
In Long-Awaited Maps of Cancer, The Breakthrough Is the Problem (9月5日 ウォール・ストリート・ジャーナル)
Core Signaling Pathways in Human Pancreatic Cancers Revealed by Global Genomic Analyses (9月4日 米国国立医学図書館 PubMed:サイエンス誌の論文の抄録)
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どこで手術を受けるのが良いか?ー高度技能医修練病院リスト
がんナビからです。
肝胆膵外科学会が難易度の高い手術の認定施設を公開 (がんナビ 8月28日)
日本肝胆膵外科学会は、難易度の高い肝胆膵外科手術で実績のある認定施設リストを公開した。・・・
今回公開されたのは、日本肝胆膵外科学会の専門医「日本肝胆膵外科学会高度技能医」の育成を目指す修練施設だ。指導医もしくは技能医が1人以上常勤しており、年間の高難度肝胆膵外科手術の件数が50件以上の修練施設(A)、30件以上の修練施設(B)に分かれている。
同リストに掲載されている医療機関は、特に、手術の難易度が高い膵がんの外科治療を受ける際、医療機関選びの参考になりそうだ。膵がんは、年間症例数の多い医療機関ほど治療成績が良い傾向にあり、両者に相関があることが示唆されている。また、難易度の高い胆管・胆嚢がんの手術、広範な肝切除を伴う肝がん手術を受ける際にも有益そうだ。・・
この記事にもあるように、すい臓がんの手術では、年間症例数の多い病院ほど成績が良いことが知られています。患者側も自分の身を守るために、怖がらずにこうした情報を調べてセカンドオピニオンや転院を考えた方がいいかもしれません。勇気を出しましょう。
リンク:日本肝胆膵外科学会 高度技能医修練施設リスト、高度技能指導医リスト
認定施設リストを見ると、東京都のように多数の認定病院が存在しているところもあれば、一件も見当たらない県もあります。そのような場合には、高度技能指導医リストに載っている医師がいる病院を選ぶのが良いでしょう。
関連過去記事:
よい医者の選び方
診療ガイドライン(手術後の抗がん剤ジェムザールの使用について)
すい臓がんと言われたら
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奇跡を信じていますか?
先日、こんなニュースが出ていました。
米国人の過半数「医師よりも神の奇跡を信じる」(CNN 2008年08月20日)
シカゴ(AP) 自分の家族が死に瀕している場合、医師の宣告よりも神の奇跡を信じるという米国人が過半数を占めることが、外科医が実施した終末期医療に関する調査で分かった。
調査はコネティカット大学のレンワース・ジェイコブズ教授らが、無作為に抽出した一般の米国人1000人と、医師、看護師などの医療従事者774人を対象に2005年に実施。18日付の医学誌に発表した。
一般の人を対象とした調査では、57・4%が「自分の家族が治療を続けても助かる見込みはないと医師に宣告されたとしても、神の力で助かる可能性はあると信じる」と回答。 ・・(後略)
世界で最も科学技術予算の多い(参考)科学大国アメリカでも、一般の人々の意識としては奇跡を信じているようですね。
日本ではどうでしょうか? 個人的には、個々の患者についてはともかく、全体としては多くの人々がすい臓がんの治療のために日夜汗を流している現状から、生存率は少しずつ高くなってきており、そのことに関しては望みをつないでもよいのではないかと思います。
(追記 わたしたちにできることはあるでしょうか? 「すい臓がん患者家族会」(すい臓がんアクション・ネットワーク)に登録してみるのも良いかもしれません。アドレスはこちら)
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がん診療ガイドラインの改訂
日本での標準治療を示した「がん診療ガイドライン」ですが(参考記事)、このほど3年ぶりの改訂作業が行われたようです。
「膵癌診療ガイドライン」の改訂内容がほぼ決定(がんナビ 2008年08月19日)
「科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン」の改訂内容がほぼ固まった。さらなる検討が必要となった1項目以外は、ガイドライン改訂委員会が示した内容が、日本膵臓学会で7月31日に開催された公聴会で了承された。今後、改訂案は、同学会のウェブサイト上で公開され、再度、意見を募るというプロセスを踏むものの、大きな変更が入る可能性は少ない。改訂ポイントを紹介する。・・(後略)
今回の改訂版が公開されるのは、来年の春だそうです。今回で最も大きな改訂は、手術の後にジェムザール(ゲムシタビン)という抗がん剤を使って化学療法を行なうことが、グレードC(推奨される充分な根拠がない治療法)からグレードB(推奨される治療法)へと一段階上げられたことでしょう。
ガイドラインは個々の患者の治療を規定するものではないということですが、ここから大きく外れる治療を主治医から勧められた場合には、なぜその治療が必要なのか患者側としても充分な説明を受ける必要があると思われます。
※現行のガイドラインはここで見ることができます。「すい臓がん(膵がん)」、「胆道がん(胆管がん、胆嚢がんを含む)」
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